9月29日(水)晴れ。承前。飛騨高山や白川郷へはたびたび出かけるが、乗用車が入れないこともあって、上高地へはなかなか行く機会がない。10年ほど前、奥飛騨から乗鞍岳を越えて安曇野~八ケ岳と廻ったことがあるが、そのすぐ後、乗鞍スカイラインへのマイカー乗り入れが規制となり、山を越えることもなくなった。上高地も乗鞍も、バスかタクシー、自転車、あるいは徒歩で行くしかない。道路が広くなり、新しいトンネルが出来て大型バスが上がれるようになったのは便利だけれど、まあ、バスプールは満車、大正池から河童橋まで湖岸を歩く人の群れを見てびっくり。河童橋の周辺にある土産物店は縁日のような賑わいで、これでは四条河原にいるのと同じではないかとがっかりした。だが眼を北アルプスの山々 に向ければ別天地が広がる。あいにく山頂は雲に隠れていたが、奥穂高、前穂高、明神岳がしっかり見えた。前夜の雨に洗われて、山の緑がひときわ鮮やか。梓川の流れは清冽で、手を浸すと氷のような冷たさだった。
観光客に交じって、大きなリュックを担いだ登山者が橋を渡っていく。これから穂高へ登るのだろうか。3000メートル級の山々を見上げ、しばし仕事のことも、悩ましき浮世のことも忘れる。林の中を散策し、日本アルプスの魅力を世界に紹介したイギリス人宣教師ウォルター・ウェストンの碑を見る。日本の避暑地(高原や山)はたいてい欧米人によって拓かれたようだ。国立公園第一号の長崎雲仙もそうだし、山梨県の清里もそう。緑色の水をたたえた 大正池は美しく、神秘的な北海道のオンネトー湖を思い出した。紅葉にはまだ早かったが、緑の山が黄金色に染まるころ、再び来てみたいと思った。工芸品のような京都の紅葉とは違った大自然のドラマを見てみたい。
写真上は河童橋の上から見上げた北アルプスの山々。帰途、雲が晴れて、いっとき槍ケ岳が見えた! 写真中は梓川に架かる河童橋。下はホテルの近くに咲いていたサラシナショウマ。若菜を水で晒して食べたことからつけられた和名(晒菜升麻)。どんな山野草に会えるかと楽しみにしていたが、ヤマハハコ、アザミ、ノコンギク、ミズヒキソウ、クサボタン、ヤマゼリ、アケボノソウなどを見ただけ。意外だったのは、野鳥の声があまり聴けなかったこと。わんさかの人なので、小鳥たちは恐れをなしていたのではないかしらん。
●草森紳一『夢の展翅』(青土社 2010年)を読む。